2014年
8月
20日
水
行政不服審査制度改正のポイント その4
行政不服審査法改正及びそれに伴う行政書士法改正は、行政書士に少なからず影響を及ぼします。
かかる一連の改正に関し、行政書士としてどうすべきか。今回はそれについての自分の考えを書きます。
(これまでの行政不服審査制度改正のポイントはこちら
行政書士としてどうすべきかを考えるために、まずは、行政書士について定めてある行政書士法についてみてみようと思います。
行政書士法はその第1条に「行政書士の制度を定め、その業務の適正を図ることにより、行政に関する手続の円滑な実施に寄与し、併せて、国民の利便に資することを目的」として定めてあります。つまり、行政書士は、①行政に関する手続の円滑な実施と②国民の利便のために、適正な業務をするということになります。
ですから、今回の行政不服審査制度の改正によって行政書士としてすべきことは、①行政に関する手続の円滑な実施と②国民の利便に沿ったものでなくてはなりません。
一連の改正で行政書士にとって一番影響があるのは、やはり行政不服申立ての代理権が行政書士に認められたことでしょう。代理権を行使する事案はそう多くはないかもしれませんが、行政書士の業務の範囲がこれまでのものより拡大するのですから。
かかる代理権が認められたのは、行政書士が行政手続の専門家であるからでしょう。
行政手続に不当な点があった場合、行政手続の専門家である行政書士が不服を申し立てることにより、手続の瑕疵を詳しく追及することができ、国民の権利を保障することができるということです。これは、②国民の利便に資することといえます。
また、行政手続で不平等等な取り扱いがある場合は、行政手続に対する国民からの信頼を失います。かかる不当な手続を、行政手続の専門家である行政書士が気付き、不服を申し立てて是正することは、将来的に①行政に関する手続の円滑な実施に役立つことでしょう(もちろん、②国民の利便にも資することになります)。
かかる①行政に関する手続の円滑な実施、②国民の利便に資する代理権を実質的なものにするためにも、行政書士は、より一層の専門的知見を身につける必要があります。すなわち、個別な手続の条文をしっかりと学び、その趣旨・目的も考え、それだけでなく、関連法令の趣旨・目的までも考慮したうえで、いかなる手続ならば①行政に関する手続の円滑な実施が実現でき、その上②国民の利便に資するかを日頃から考えなくてはなりません。また、行政手続についてさらに詳しくなり、不当な行政手続がなされている場合に気付けるようにする必要があります。
もっとも、行政書士が行政不服申立ての代理をする点で、不安もあります。それは、行政書士が訴訟的性格を有する活動に不慣れなことです。
これまで行政書士は、争訟性のある法律事務を取り扱っていませんでした。ですから、審理のために主張したり証拠を提出したりする立証活動は行っておりません。
行政不服申立ては訴訟的性格を有しており、行政書士の立証活動が稚拙であった場合には、国民の権利保障がなされず、②国民の利便が図れないことになります。
また、無意味な不服申立ては行政庁に無用な審理を強いることとなり、行政手続が停滞する要因にもなりますから、①行政に関する手続の円滑な実施が害されるおそれもあります。
ですから、行政書士も、しっかりと訴訟のルールに慣れる必要があります。具体的には、要件事実の考えを身につける、条文から考える、具体的事実と問題になりそうな条文の文言を結び付ける、主張した事実を証明するための適切な証拠を定説な時期に提出する、などといったことをあらかじめ勉強する必要があると思われます。
行政不服申立ての代理以外にも、今回の一連の改正で行政書士に期待されることはあります。
専門員や第三者機関への参画です。
行政不服審査制度改正のポイントその2でも書きましたが、審理員や第三者機関の構成員を確保できるかは課題として残っております。かかる構成員として、行政手続に精通している行政書士は、うってつけの人材といえます(審理員は審査庁に属する職員ですが、非常勤でもなることができます)。行政手続に精通している行政書士が審理員として審理したり、第三者機関として審査庁へ意見を述べることは、より公正で充実した審理がなされる可能性が高く、審査請求する②国民の利便に資することとなります。また、公正で充実した審理がなされるということは、それが積み重なれば不明瞭だった行政手続運営のある意味基準ともなりうるので、①行政に関する手続の円滑な実施にも資することとなります。
行政書士がどこまで参画できるかわかりませんが、可能性としてはありでしょう。
それではまとめみたいな感じで。
今回の改正で行政書士に一番関わりがあるのは、行政書士に行政不服申立ての代理権が認められたことです。かかる代理権を実効的なものにするためにも、行政書士は、日ごろから専門分野を確立し、さらに高度な専門知識を身につけるよう努力しなくてはなりません。できれば専門分野は一つだけでなく、複数身につけるよう努力するべきであり、幅広い知見を持つためにも常に様々な分野にアンテナを張って向上するようにすべきでしょう。
なお、行政不服申立ては、あくまでも最後の手段です。行政書士としては、最初に依頼があった申請で許可を得ることができれば、不服申立てをする必要はないのです。ですから、まずはしっかりと許認可を得られるように、適切な書類等を作成すること。その上で、依頼者との信頼関係をつくることが、なにより重要だと思います。
そして、最後に。
行政書士は①行政に関する手続の円滑な実施と②国民の利便のために業務を行わなくてはなりません。そのためには、高度な専門知識だけでなく、強い倫理観と人権感覚がないといけません。
今回の改正で、行政書士の業務が拡がりました。
ですから、それに対応し、より一層専門知識を身につけるのみならず、さらなる法令遵守に努め、倫理に従い、人権意識を有した行政書士にならなくてはいけません。
私も、まだまだ未熟でありますが、そういった行政書士になるよう努力していきます。
2014年
8月
19日
火
行政不服審査制度改正のポイント その3
前回の続きで、今回は行政不服審査法改正に伴って改正された行政書士法について書きます。
(前回はこちら【行政不服審査制度改正のポイント その2】
前々回はこちら【行政不服審査制度改正のポイント その1】)
行政書士法改正によって、行政書士にも行政不服申立ての代理権が認められるようになった。そのように言われます。
もっとも、すべての行政書士が、すべての事案において、行政不服申立ての代理をすることができるようになったわけではありません。
まずは、「研修の課程を修了した行政書士」(改正行政書士法第1条の3第2項、以下「特定行政書士」という。)でないと、代理することができません。
また、対象が「行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続」(改正行政書士法第1条の3第1項第2号)に限定されています。
すなわち、『特定行政書士が依頼を受けた許認可等に関する判断に対する不服申立て』しか代理できません。
それでは、なぜこのような限定がなされたのでしょう(政治的思惑は抜きにして)。以下、私の考えを書きます(あくまでも私の考えです)。
まず、特定行政書士に限定されている趣旨は、次の点にあると思われます。すなわち、行政不服申立て手続は訴訟類似の手続であるところ、行政書士はこれまで争訟性のある事案を手がけることが少なかったです。そうだとすると、行政不服申立て手続において適切な主張や証拠提出ができない可能性があります。これでは行政手続に不服のある国民の権利を十分に保護できなくなります。そこで、専門的な研修を受けた特定行政書士に限定することにより、しっかりとした不服申立て活動を行うことを可能にし、もって国民の権利を保障する点に、特定行政書士に限定した趣旨があると思われます。
また、対象を限定した趣旨は、次の点にあると考えられます。すなわち、本人申請をして許認可を得られなかった場合は書類不備である可能性があります。かかる場合、不服申立てをするよりも、不備を直して再申請した方が本人の希望に沿った結果になるし、行政機関にとっても無駄な不服申立ての審理がなされないので、本人にとっても行政機関にとってもいいです。そうすると、かかる場合に行政書士に代理権を認める必要性はあまりありません。また、申請手続きから関与した行政書士が不服申立てをした方が、事案に精通しているので、充実した不服申立てができます。このように、国民の権利を保障する点に、対象を限定した趣旨があると思われます。
主体、対象が限定された結果、行政書士が行政不服申立ての代理権を行使する機会は、そこまで多くならないと想定されます。そもそも許認可等で不許可処分を受ける事案が少ないですし、不服申立てだけ代理するということもできませんから。
それでも、行政書士の業務範囲が拡大したのは事実ですし、申請から申請が不許可だった場合にその後の不服申し立てまで一貫して行政書士ができるようになったのは行政書士への信頼を向上させるのに資すると思われます。
それでは、行政不服審査制度が改正されて、行政書士はどうするべきか。
次回はその点について書きます。
2014年
8月
18日
月
行政不服審査制度改正のポイント その2
8月11日に書いたものの続きです。
(前回のはこちら【行政不服審査制度改正のポイント その1】)
今回は、行政不服審査制度改正で残っている課題についてです。
まずは、審理員について。
審理員は、審査庁に属する職員であり、完全な第三者ではありません(行政機関寄り)。
また、小規模な自治体では審理員を確保するのが困難であることが想定されます。
第三者機関についても課題はあります。
第三者機関たる行政不服審査会は、総務省に置かれる組織です。
もっとも、行政事件というのは他の省庁に跨るものが多く、総務省の機関である行政不服審査会が積極的に介入するのは困難だという指摘がなされています。結局、行政不服審査会は審査庁の審査に対して追認するのみで、有効に機能することはないとまで言われています。
また、行政の役割が肥大化した現代では、行政機関に対する不服も多岐に及んでおります。かかる不服の範囲をすべて網羅している人材というのは、そう多くいません。まして、小規模自治体となると、皆無といえそうです。そして、行政不服審査会が必要となるのは、国に対する案件よりも、地方自治体に対する案件である場合が多いのです(国の場合は特別法により、行政不服審査会によらない場合が多いと想定されるから)。
そうなると、地方では人材の確保が問題となりそうです。
審査請求期間も3か月に延長されたとはいえ、不服申立前置が縮小された以上、行政事件訴訟法と同じ6か月にすべきではないでしょうか。
このように、課題もある行政不服審査制度の改正ですが、それでも多少の前進があったのも事実です。
次回は、行政不服審査法と関連して改正された行政書士法について書きます。
2014年
8月
11日
月
行政不服審査制度改正のポイント その1
初めて行政書士らしいブログを書きます(笑)
先日「行政不服審査制度改革と行政書士業務」というタイトルの研修会に参加しましたので、そのアウトプットとして行政不服審査制度改正のポイントを書こうと思います。
行政不服審査制度改正の大本となっているのが、行政不服審査制度の一般法である行政不服審査法の改正です。この行政不服審査法は、昭和37年に制定されたもの。52年経って、ようやくの改正となります。
そして、行政不服審査法の改正に伴いまして、その関係法律約350本が改正されます。行政書士法の改正もその一環といえます。
改正の目的は、大きく分けて2つ。
行政不服審査制度の「公正性向上」と「利便性向上」です。
公正性向上のポイントは、①審理員による審理手続の導入②第三者機関(行政不服審査会)の設置③審査請求人・参加人の手続的権利の拡充で、利便性向上のポイントは④不服申立期間の延長⑤不服申立ての手続を「審査請求」に一元化⑥審理の迅速化⑦不服申立前置の縮小です。
①審理員による審理手続の導入について
現行法では審理において係争処分等に関与した職員が関わることを禁止していませんでした。
しかし、それでは処分側に有利な審理がなされる可能性が高く、公正な審理がなされないおそれがありました。
そこで、係争処分等に関与していない審理員による審理手続を導入し、公正性を高めることにしました。
②第三者機関(行政不服審査会)の設置について
審査庁の判断が妥当であるかチェックするために、第三者機関である行政不服審査会が審理に関与することとなりました。
③審査請求人・参加人の手続的権利の拡充について
行政事件というのは、行政機関側に証拠等が偏在していることが多く、審査請求人・参加人が適切な主張や証拠提出をするのが困難なものでした。
そこで、現行法では審理に提出された書類等の閲覧請求にとどまっていたのが、写し等の交付まで請求できることとされました。
④不服申立期間の延長について
現行法では「処分があったことを知った日の翌日から起算して60日」だった主観的請求期間(処分があったことを知ってから請求可能な期間)が新法では「3か月」に延長されました。これにより、以前よりも長い期間で不服申立てができ、利便性が向上します。
⑤不服申立ての手続を「審査請求」に一元化について
不服申立ての手続に関して、現行法では規定されていた、処分等をした行政庁に対する不服申立てである「異議申立て」を、新法は廃止し、処分庁以外に対してする不服申立てである「審査請求」に一元化しました。
現行法では、原則として上級行政庁が存在する場合は審査請求、上級行政庁が存在しない場合は異議申立てという振り分けがなされており、それだと上級行政庁の有無によって手続保障のレベルが左右されてしまいます(異議申立ての手続保障は審査請求よりも劣ります)。そのような不都合を解消し、手続保障を全体的に向上させるために、審査請求に一元化することにしたのです。
もっとも、審査請求人が簡素な手続を望む場合、処分庁に対する不服申立てである「再調査の請求」をすることも認めました。
⑥審理の迅速化について
行政事件というのは、何かとつけて時間がかかりやすいものです。
そこで、審査庁となる行政庁に対して審理期間の目安となる標準審理期間を設定するように努めさせ、標準審理期間を設定したならば公表しなければならないと規定しました。
また、計画的な審理手続についても規定されました。
⑦不服申立前置の縮小について
行政庁がした処分等に不服がある場合、行政機関に対して不服申立てをする行政不服審査制度と、司法に対して不服申立てをする行政訴訟提起という2種類の方法を採ることができます。そして、行政事件訴訟法8条1項本文によると、この2つの方法はどちらを採るか自由に選択できるのが原則です。
もっとも、同法8条1項ただし書によって、個別法により行政不服審査制度である審査請求に対する裁決を経た後でなければ行政訴訟を提起できない旨の定めがある場合は、行政庁に対する不服申立てをしなければ出訴できないという例外を設けてありました。かかる例外によって、ほとんどの場合において行政庁に対する不服申立てを経なければ出訴できないということになっていました。
かかる不服申立前置は国民の負担が大きく、また、憲法上保障されている国民の裁判を受ける権利を制約するものでした。
そこで、関係法規の改正によって、不服申立前置は縮小され、特に異議申立てと審査請求の二重前置はすべて廃止となりました。
このように、公正性、利便性が向上した行政不服審査制度でありますが、まだまだ課題はあるようです。
それは次回に。